DSの活用例・実例

①アステナホールディングス

アステナホールディングス株式会社(以下、アステナHD)は「統合報告書2025」において、世界で初めて付加価値分配計算書(DS)を作成・開示するとともに、人的資本への投資を強化するために「付加価値の適正分配」を経営の中核として位置付けることを発表しました。このプロセスにはスズキ研究室も参加し、付加価値の分配状況の分析から将来の分配目標の策定、人を大切にした経営方針への転換に携わりました。

アステナHD東京本社前にて、アステナHDとスズキ研究室により撮影

従来の経営では人的資本への投資や人材育成の体制の整備が十分でなく、中長期的な発展に貢献できる人材の確保を課題としていました。そのような状況の中、2024年に瀬戸口智社長が就任して以降は、人づくり、組織づくりに力を入れ、次世代の経営者、革新的な研究開発を実行できる研究者、そして取引先との良好な取引関係を構築できる人材の確保に取り組んでいます。

そのような人材を獲得・育成するためには、人的資本への積極的な投資が必要となります。そこでアステナHDは、人的資本への投資をコストではなく付加価値の分配・投資先と捉える付加価値分配計算書を導入し、短期的な利益の最大化ではなく、付加価値の各ステークホルダーへの適切な分配、特に従業員への積極的な分配に舵を切りました。

『統合報告書2025』p.37より

加えて、付加価値を適正に分配・投資することで、付加価値の増加へ向けた取り組みを実行し、それにより付加価値がさらに増加するという価値創造プロセスを具体的な施策とともに整理しました。

『統合報告書2025』p.37より

これらの施策は社内外から好意的に受け取られています。社内においては、人的資本を重視する経営姿勢が社外取締役から評価されるとともに、従業員のモチベーション向上につながっています。そして社外においては、付加価値分配計算書を公表した世界初の企業として注目を集めており、2026年2月17日の日経新聞の朝刊の1面では富の分配を可視化する取り組みを行っている企業として紹介されました(記事はこちら)。

②ANAホールディングス

ANAホールディングス株式会社(以下、ANA)は2025年に『Human Capital Story Book』を公表しました。この報告書によると、ANAは従来より人を大切にした経営を続けてきており、現在は「人財への投資を起点とした価値創造サイクル」を実行しています。このサイクルは、人的資本への投資を拡充することにより、顧客の満足度が向上し、その結果として企業の社会的・経済的価値が増加、そしてその価値をさらに人的資本へ投資するという循環を意味しており、スズキ研究室が掲げている「付加価値の適正分配・投資経営」と非常に近い考え方に基づいています。

『Human Capital Story Book』p.7より

そのような経営の実現のために、ANAは従業員1人あたりの営業利益に1人あたり人件費を加えた「付加価値生産性指標」をKPIとして設定することにより、人的資本投資を単なる費用ではなく付加価値の分配・投資先の一部として捉えています。一般的に重視されている利益を最大化しようとした場合には、人件費をはじめとする費用は削減される対象となってしまいます。しかしANAの場合は、人件費を付加価値の一部として認識することにより、費用を削減して利益を増やすのではなく、付加価値を増加させそれを適切に人的資本へ投資する経営を実現しています。

『Human Capital Story Book』 p.19より

この他にも中長期人財戦略方針の策定をはじめとした様々な施策を実施することにより、人を大切にした経営を推進しています。その結果として、エンゲージメントサーベイのスコアは年々向上し、2024年度には過去最高スコアを更新しました。このように、日本を代表する企業のひとつであるANAは、利益ではなく付加価値の増加を目指し、生み出された付加価値を従業員に対して積極的に投資することにより発展を続けています。

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