スズキ研究室とAccounting for Well-being
Accounting for Well-being
過去30年、「失われた30年」と呼ばれる時代に、マクロ構造的に日本企業の収益はなかなか増加しない環境がありました。他方で、それ以前の高度経済成長期と同様に利益を最大化しようとする圧力が依然として蔓延した結果、コストカット型の経営が支配的になり、例えば役員や従業員に対する給与が抑制されてきました。結果として、利益やそれを原資とする株主に対する還元は増加し、それを反映して株価も伸長しており、日経平均株価は約10年前と比べて5倍です。そうした会計やコーポレートファイナンス上のデータを見れば、その経済社会の下で生活する私たちは豊かになりウェルビーイングも改善されているように映りかねません。
しかし、このページの読者やご家族は、毎年最高値を更新する利益や配当のようなウェルビーイングの改善を経験しているでしょうか。
おそらくそうではありません。そのいくつかの原因のうち、大切なのは、株主の利益を優先する経営が多くの働く者の給与等を抑制し、その犠牲のもとに利益や株価の拡大を続けている可能性です。メディアの報道や典型的な教科書の利益や株価データだけを見れば、株式会社制度の下で日本の経済社会は豊かになっているように映ります。しかし、今日の利益最大化は必要な費用や投資の抑制に依拠したものであり、その為に取引先や役職員の所得が改善せず、ウェルビーイングを支える基礎としての付加価値の伸長がみられず、またその適正な分配も実現していないのではないかと、方法論的に懐疑することが必要です。
「付加価値分配計算書(DS)」は、そうした現代の成熟経済における構造的な問題に対する手法の一つです。株主第一主義を反省し、利益最大化がゴールとなっている損益計算書の項目を組み換え、従業員を含むあらゆるステークホルダーに「適正に」分配・投資することを目的としています。それゆえ、従業員のウェルビーイングが向上し、各自のモチベーションやチームワークの改善に繋がり、ファイナンシャルパフォーマンスにもポジティブな効果をもたらすという好循環を措定しており、リテンションの効果も期待されます。弊研究室では、それらを達成しうる「方法」としてDSを位置づけています。
加えて、成熟経済は今後日本のみならず地球全体に広がるものと予想されます。弊研究室では、英オックスフォード大ウェルビーイング研究所長のJan-Emmanuel De Neve先生や、国内では前野隆司先生や石川善樹先生と連携し、実際に企業へウェルビーイング経営の導入支援もさせていただいております。直近ではrelate社と協働し、企業のチームワークの質を高める組織づくりの実装を推進しています。